(画面暗転、無音。テキスト表示を一時的に遅く)  ――西暦200x年、地球温暖化により、世界は滅亡した――  (背景『民宿の居間』、テキスト表示速度を元に戻す。BGM:変わらない日常)  今日もそんなモノローグを入れたくなるほどに暑い。  大きな縁側に面した居間の畳に寝転がり、時折吹いてくる風と風鈴の音を頼りに耐えしのいでいたのだが……  この暑さは絶対に太陽が悪意を以って俺を殺そうとしているに違いない。  夏輝「いわゆるナマケモノのレッテルを紗耶から貼られている俺にも、この『暑さ』だけはわかるッ!この『暑さ』ってのは」  (立ち絵:saya_a05.png 画面中央に表示)  紗耶「何やってんのアンタ?」  おおっと背後からの奇襲だ。  (立ち絵:saya_a08.pngに差し替え)  紗耶「んー……今日はちょっと涼しいわね」  間違いなく気温は真夏日。  お出かけには水筒を持っていきましょう、なのだが。  夏輝「待ってくれ、この暑さは明らかに致死量を越え」  紗耶「うん、今からお墓参りに行くわよ」  突如として後ろから現れた紗耶は一人で頷きながら、畳に沈んだままの俺の左腕を握って引っ張り挙げようとする。  だが冗談じゃない、こんな暑さの中外に出るなんて、本当に死にに行くようなものだ。  ならば、俺は俺らしく。  国家権限を活用する!  夏輝「待ちたまえ、俺第三帝国は拒否権を行使する。意訳すると『こんな暑い中外に出るなんて気が狂っとる』だ」  (立ち絵:saya_a03.pngに差し替え)  紗耶「ふぅん?(ウェイト1000ミリ秒)それじゃ、私合衆国は武力行使を行うわ。意訳すると『グダグダ言うなら潰すわよ』ね」  (BGMを500ミリ秒でフェードアウト、BGM:Hurry UP!)  その微笑みと、額に浮いた血管がとってもアンバランス。  嗚呼、どうして俺はこんなにも地雷を踏むんだろう、地雷処理班にでも志願したほうがいいのだろうか。  (画面フラッシュ、画面全体を継続して弱くシェイク)  握られた場所にじわじわと、しかし確実に圧力が増加していく。  いつしかそれはきっと、人間の腕として耐えられる圧力の許容範囲を超えるのだろう。  ならば、取り返しがつかなくなる前にせめて反論をするしかない!  夏輝「ふっ、例え貴兄があの合衆国だとしても国連の採択なしに他国への武力行使なん(画面のシェイク強化)あだだだだだだ!!!?」   まるで万力で締められるような激痛が二の腕を攻め立てる!  つーかいきなり一気に強くなったぞ、逆鱗にでも触れたか!?  握られた場所がどんどん赤くなり、寄った皺は星の数。  夏輝「ギブギブギブギブ!!!だ、ダメ!そこはらめぇぇぇっ!!!」  さらに五秒ほどホールドされてからやっと、俺の愛しい左腕は拷問から開放された。  (シェイク終了、BGM500ミリ秒でフェードアウト。BGM:変わらない日常。立ち絵:saya_a21.pngに差し替え)  夏輝「ハァ……ハァ……殺されるかと思ったぞ」  紗耶「安心なさいな。お墓参りには着いてきてもらうんだから命までは奪わないわよ」  つまりそれは、目的が無ければ命を奪うってことかよ。  先ほどまで攻撃されていた右腕は……あー、赤くなってる。  どんな握力してるんだコイツ。  (立ち絵:saya_a08.pngに差し替え)  紗耶「ほら、行くわよー」  夏輝「イ、イエス、マム」  もう一度捻られたら、こんどこそ俺は左腕が無くなるかもしれない。  いや、冗談じゃなくコイツなら本当に握力で破壊できるんじゃないか?  紗耶「さっさとしなさいよ。一時間は歩くんだから」  夏輝「マジッすか」  紗耶「マジよ」  渋々立ち上がり、俺は玄関へと向かうことにする。  これ以上の抵抗は無意味であり、つまり我が国は敗北したのだ。  ああ、つくづく思うよ。  夏輝「戦わなければ生き残れないんだなぁ……」  (立ち絵:saya_a20.pngに差し替え)  紗耶「……何が?」  (立ち絵消去、画面暗転、BGM500ミリ秒でフェードアウト)  (ウェイト2000ミリ秒)    (背景:林道、立ち絵:saya_a09.png 画面中央に表示 BGM:ちゃっちゃちー♪)  夏輝「…………」  紗耶「ほら、そんなにノタノタ歩かないの!キリキリ歩きなさい!」  と仰られても、正直この暑さは無いわ。  心ではそう思いつつも、そんな悪態をつく余力なんてどこにも残されてはいない。  道の隣に突き立っている木々たちが地面に落とす影を眺めながら、俺と紗耶は炎天下を歩き続ける。  時折聴こえてくる蝉の声、鳥の鳴き声、そして二人分の足音。  世界に人間が二人だけになってしまったかのような錯覚さえも持たせる、そんな雰囲気だ。  先に歩く紗耶をそのままに、少しだけ、休憩がてらに立ち止まって大空を仰ぎ見る。  (背景と立ち絵消去、背景:青空)  大きな入道雲、黄金に輝く太陽、空に小さな影となって飛翔していく名前もわからない鳥。  まるで一流画家が描いた風景のような、広い広い大空。  俺の住んでいた町とは何もかもが違うな、と思った。  家の扉を開けた時に身体を包む暑さは質の違うものだし、歩いて数分でクーラーがガンガンに効いたコンビニだってある。  ここには都会にあるようなものは何もないけれど、都会には何ここにあるようなものが何もないのかもしれないな、と。  暑さの中、死に絶えそうな脳細胞でそう思った。  ザリザリとサンダル越しに伝わる小石の感触。  頬をなでる生ぬるい風。  夏輝「あー……」  楽しくともなんとも無いそれが、なぜか少しだけ楽しいような気がして。  紗耶「なに止まってんのよ?さっさと歩きなさい!!」  (背景:林道、立ち絵:saya_a17.png)  すこし遠くから聞こえてくる紗耶の声も、少しだけ楽しかった。  夏輝「はいはい、解りましたよ……」  二人で肩を並べて、道を歩き続ける。  (立ち絵:sata_a09.png 表示)  しばらく歩き続けて聴こえるのは、わずかな葉摺れの音と、蝉の声と……エンジン音?  後ろを振り返ってじっと目を凝らせば、近づいてくるのは一台の軽トラック。  つーか、アレは。  紗耶「どうしたの?……あれ?阿部さん?こっちまで来るなんて珍しいわね」  ずんずん近づいてくる軽トラック。  音楽でもかけているのか、なにやらこの阿部さん、ノリノリである。  俺と紗耶を見つけたらしい阿部さんは車の中でなにやらモゾモゾと動いてから、シートベルトを外したようだ。  俺たちの前に止まった軽トラックは窓を開けて、  (立ち絵:saya_a09.pngを画面左側へ移動、立ち絵:阿部通常 を画面右側に表示)  阿部「よう、二人とも何処かへ行くのかい?」  紗耶「お墓参りです。ちょっとさんぽも兼ねて、ね」  夏輝「……すまん、片道三十分をさんぽとは言わないと思うんだが、どうよ」  たしか出発する前には一時間は歩くと言っていた。  いま歩いたのは大体十五分くらいであり、ちょうど行きの折り返し地点のはずだ。  (立ち絵:saya_a11.png 差し替え、阿部は未定?)  紗耶「え?」  阿部「三十分?」  ――すげぇ、いやな、予感。  夏輝「……三十分じゃないの?」  紗耶「あ……もしかして、出る前に言ったアレ?」  夏輝「そうそう、一時間は歩くのでありますよ、とか」  紗耶「そんな話し方じゃなかったけど、片道で一時間よ?」  阿部「ああ、叙瑠樹から墓地までだろ?三十分はちょっと無理じゃないかい?」  ………………………おおっと、ここでロングパスが着地。  くそっ、騙された!?  いや、これは!!  夏輝「こ、孔明の罠か……!!」  思い描いていたゴールは蜃気楼だったのだ。  全身の力が抜けた俺は、まるで最終ラウンドまで戦い抜いたボクサーのように膝から地面に落ちる。  (SE:倒れる音 シェイク100ミリ秒)  ちょっと痛かった。  (立ち絵:saya_a17 差し替え)  紗耶「ちょっと!?もう、だらしないわね!」  夏輝「ナントデモイッテクレ」  阿部「おいおい、大丈夫かい?」  夏輝「イマカラ カエレバ オウフク サンジュップン」  紗耶「今更帰るわけないでしょ!!」  ダメだ、本当にダメだ、俺は無事に帰ること出来なさそうだよ。  長くため息をつ吐く俺。  (立ち絵:阿部笑顔 差し替え)  阿部「それなら、軽トラの荷台にでも乗っていくかい?どうせ墓は通りがかるんだ」  軽トラの荷台=車=楽……?  ああ!なんという渡りに船、棚からぼた餅、鬼に金棒、千変万化!  後半ちょっと違ったような気がするが、まあいいとしよう。  とにかく一時間の道程を歩かなくてもよいというのなら、乗る以外の選択肢は無い!  夏輝「是非にお願いしま」  (立ち絵:saya_a07.png 差し替え)  紗耶「気持ちだけ受け取っておきますね」  コイツは何故おれの言葉をたたききってそんな死の宣告を普通に行えるのだろうか。  趣味か?  歩くよりも車に乗りたい文明人の俺は必死の反論を試みる!  夏輝「なんで!?早く終わった方がいいだろ!?   (立ち絵:saya_a23.png 差し替え」  紗耶「でもねー……アンタ、運動不足でしょ?」  夏輝「いやいやいやいや!」  阿部「あー、確かに今は荷物だらけで二人乗るのが精一杯だけど、遠慮することは無いぜ?」  親指でクイクイと荷台を指差す阿部さん。  覗いてみればそこには、錆びた自転車やら車の部品や壊れた学校用の椅子、机がびっしりと載っていた。  全ての荷物はロープでガッチリと固定されており、荷崩れの心配はひとまず無さそうだが、確かに、この状況では二人がかなり近づいて乗ることになる。  ぶつかるとかの粗相があれば、左腕の生命に関わるかもしれないぞこれ。  夏輝「……ああ、じゃあ、諦め」  (立ち絵:saya_a06.png 差し替え)  紗耶「阿部さん、やっぱりお願いします」  夏輝「だから何でだよ!掌返しすぎだろ、常識的に考えて!」  (立ち絵:saya_a15.png 差し替え)  紗耶はといえば若干顔を赤くしながら……なんで赤いんだ?  そして、そのなんとも言えない顔でもごもご言いながら、  紗耶「それは、その、ほら!アンタが倒れたら元も子もないでしょ!?」  夏輝「なんだそりゃあ……」  阿部「じゃあ乗ってくれよ。狭くて悪いけどな」  (立ち絵:阿部 消去)   紗耶「そ、それじゃ、失礼しますね。ほら、アンタも早く乗りなさいよ!」  釈然としなかったがまぁ、歩かなくてもよいというのなら万々歳だ。  本当に狭い空間なのだが、なんとかぶつからないように努力しよう。  主に俺の左腕のために。  (全立ち絵消去、BGMを300ミリ秒でフェードアウト。背景消去、ウェイトあり)  (背景:林道(道路の上?) BGM:路地裏の会合)  砂利道を走る軽トラックは時折俺の尻をたたき上げたが、それでも歩くよりは数十倍楽なものだった。  そこそこの速さで走る軽トラに吹き付ける風が心地よく、流れていく風景は見ていて小気味良い。  人生初の軽トラの荷台。  今日は『軽トラの荷台に初めて乗った記念日』にしよう。  そんな些細な充足感を感じながら、ダラリと足を伸ばしてくつろぐ俺の隣。  (立ち絵:saya_a15.png 画面右)  かなり密着気味の距離のそこには、先ほどから俯いたままの紗耶がいる……車に酔いやすい体質なのだろうか。  夏輝「……大丈夫か?」  何気なく紗耶に声を掛けてみると、まるで弾かれたような反応速度で顔を上げる。  俺がやったら間違いなく首の筋肉を傷める速度だ。  流石島の人。筋肉の構成が凄い。  (立ち絵:saya_a10.png)  紗耶「!?な、何が!?」  夏輝「いや、ずっと下向いているからさ。酔ったか?」  紗耶「べべべ、別にそういうのじゃないわよ!」  夏輝「何故ムキに……」  (立ち絵:saya_a17.png)  紗耶「うるっさい!!!ムキになんてなっていないわよ!!」  なんか怒られた。  (立ち絵消去)  相変わらず軽トラックはそこそこの速さで走り、耳を澄ませば運転席からカーステレオの音が聞こえてくる。  流れている曲は一昔前に流行ったポップスナンバーだろうか。  時折、軽快なリズムにあわせて「ヘェイ!」とか「フゥッ!」といった妙な合いの手。  阿部さん、随分ノリいいな。  というかまずい、紗耶が凄いだんまりだ。  まずい、実にまずい。気まずい。  (立ち絵:saya_a15 画面右に表示)  紗耶「……ねぇ、アンタさ」  夏輝「イ、イェスマム!!?」  紗耶「昔ここにいたときのこと、覚えてる?」  夏輝「えーと、宇宙人が」  (立ち絵:saya_a23.pngに差し替え)  紗耶「覚えてないのね。安心したような、ガッカリしたような……」  だからスルーしないで欲しいんだが。  折角これから宇宙人の来訪に始まる壮大なスペースオペラを描き出そうとしたというのに。  仕方ない、ここは沙耶の話に乗っておくべきか。  夏輝「安心したって、なにが?」  (立ち絵消去)  とりあえず当たり障りのない……と思うキーワードを聞きかえしてみたのだが、紗耶は急にそっぽを向いて、ぶつぶつと何かをつぶやきはじめてしまった。  なんだっていうんだ全く。  (ウェイト1000ミリ秒、同時にBGMも1000ミリ秒でフェードアウト)  突然、軽トラが大きく傾いた。  (画面暗転、シェイク強)  夏輝「うわわっ!!?」  紗耶「きゃぁっ!?」  重力の向きが一気に右側へ――紗耶の方から、俺の方に重力がかかるように――変化した。  重力の次に全身に感じたのは、沙耶の仄かな汗の匂いと、柔らかなシャンプーの香り。  触れ合ってしまった腕の感じる、滑らかな肌の感触。  反射的に閉じてしまった目をゆっくりと開けば、  (一枚絵表示:主人公の上に倒れこむ紗耶 BGM:流れる時の中で)  紗耶「…………」  夏輝「…………」  うわ、すっげぇいいうなじ。  すっと伸びたラインに、健康的な肌。  とっさに振り向いた紗耶は目を丸くしていた。  互いに頭が真っ白になり、お互いに見つめあうこと数秒。  見詰め合っている時間に比例するかのように紗耶の顔がどんどん赤くなっていく。  夏輝「これは絶対俺のせいじゃないぞ」  紗耶「……知ってるわよ」  夏輝「いや、だから俺をキズモノにするのはカンベンして欲しいんですが」  紗耶「わかってるわよ……」  良かった。  なんか怒ってるっぽいけど命は助かったみたいだ……  夏輝「ふぅ……で、いつまでこの体勢で?」  さっきからずっと紗耶が俺の上に覆いかぶさったままで、正直ちょっと辛い。  熱さとか重さとか、あと小指のさきっちょほどの理性が。  紗耶「わ、わかってるわよ!!あ、足……そう、足が痛くて動き辛いの!」  夏輝「大丈夫かよおい。阿部さんに言って止めてもらうか?」  墓地までもう少しって所だろうが、紗耶が足をくじいたりしていたら大変だ。  放っておいて大事になったら笑い話にもならないし。  夏輝「阿部さんがんぐ」  (画面、100ミリ秒シェイク)  紗耶「大丈夫だってばっ!!」  伸びてきた掌が俺の口をふさぐ。  同時に鼻も上手い具合にふさがっています。呼吸止まってるって。  夏輝「んががが」  (画面、100ミリ秒シェイク)  紗耶「すぐに治るの!動かなければ!」  ちょっと苦しいぞ、つーか口から手を離せって!  夏輝「うぐぐぐぐ」  (画面、100ミリ秒シェイク)  紗耶「えーと、だから、この体勢から暫く動けないから!わかった!?」  わかったわかった!だからこの手を!  夏輝「もごごぐごご」  (画面、100ミリ秒シェイク)  喋ることも出来ないほどガッチリホールドしてるし。  だから握力では勝てないんだからカンベンしてくれって!  (画面、100ミリ秒シェイク→500ミリ秒待機 を3回繰り返し)  あ、やべ、めが、かすんで、きた  (画面を2000ミリ秒でゆっくり暗転)  紗耶「あれ?…………あっ!ちょ、大丈夫!?」  (暗転解除)  夏輝「グェッホ!グェッホ!……酸欠で死ぬかと思った」  紗耶「とにかく!動かなければ治るから!!」  なんというか武力行使ばっかりだなコイツは。  反論も何もできやしない。  夏輝「ふぅ、それならそれで、その体勢は疲れるんじゃないのか?」  現在の紗耶の姿勢は出来る限り俺と密着しないように両手を突っ張らせた、どう考えても楽には見えない姿勢だ。  足を動かさないにしても、姿勢くらい何とかした方がいいと思う。  紗耶「…………じゃ、じゃあ」  夏輝「じゃあ、って……うおっ!?」  (SE:倒れる音 画面シェイク)  両腕の保持をゆっくりと解除し、ゆっくりと俺のほうにもたれかかってくる。  だんだん俺にかかる圧力が増加していく。  すげぇ、紗耶の、匂い。  紗耶「な、なによ!仕方ないでしょ!」  夏輝「なんだこれ!罠か!?」  半端に身長差があるもんだから顎が当たりそうだ。  よって首を傾けざるを得ないんだが、このポーズって、ほら。  なんか、後ろから抱きしめてるみたいだぞ!?  夏輝「あの、サヤサン?」  紗耶「うううううるっさい!!黙ってなさい!!」  夏輝「聞く耳持たずですか!?」  身体にかかる沙耶の重みと、やわらかい髪の香りと汗の匂いに集中砲火を受けながら思った。  ……到着まであとどれくらいかかるんだろう、と。  紗耶「……触ったら沈ませるわよ」  夏輝「…………」  えっと、どこに?  (BGMと画面、2000ミリ秒でフェードアウト、ウェイトあり)  (画面暗いままで、BGM無し。SE:エンジン音を音量小さめでかけっぱなし)  しばらく互いに黙りこみながら、ただただこの時間が過ぎることを待っていた。  嫌なわけではない。  気恥ずかしいというか、正直少し息苦しいのだ。  正直、女心ってのが本当にわからない。  (SE:エンジン音 停止)  左右にある荷物の山からす腰だけ見えていた森を抜け、軽トラックはやっと停車した。  流れっぱなしだったポップスが停止されて、「フッフゥー」という奇声。  夏輝「……着いたみたいだな。紗耶、足大丈夫か?」  紗耶「…………」  応答無し。  夏輝「紗耶?おい!」  紗耶「…………すぅ」  夏輝「寝るなよ!!」  いや、確かに俺も眠かったよ。  何もすることないし、話すこともないし。  別に眠ることは問題じゃない、ただ、阿部さんに見られるのはまずい!  夏輝「起きろッつーの!!」  実力行使。  紗耶の耳をぐぃんぐぃんと引っ張りながら、大声で叫ぶ!  (背景:林道(道路上)、立ち絵:saya_a24.png 画面中央に表示)  紗耶「う……にゃ…………はれ?ここは……?」  夏輝「起きた?」  紗耶「……着いた?」  夏輝「着いた」  紗耶「…………はふ」  しかし、普段からは予想だに出来ない無防備っぷりだなぁ。  まぁ、手は出さないが。  だって、誰でも命は大切だろう?  紗耶「……んん……降りるわよ」  夏輝「御意に」  フラフラと立ち上がって頭を振り、軽トラの荷台から軽やかに飛び降りていく。  (立ち絵消去)  夏輝「…足、大丈夫なのか?」  とりあえず本当に治ったらしい。  (背景消去、SE:着地音、背景:墓地 表示、BGM:変わらない日常)  後を追って降りれば、そこにはそこそこの面積の墓地が広がっている。  中々情緒があるというか、肝試しでもすれば楽しそうだ。  ……いや、友人に幽霊がいる以上、肝試しってのも微妙かな。  (立ち絵:阿部 笑顔 画面右に表示)  阿部「おっ、ケツは大丈夫だったかい?」  夏輝「目つきがいやらしいですよ」  阿部「俺の愛は世界一ピュアだぜ?」  夏輝「なんというか、それはない」  阿部「つれないなぁ、だがそこがいい」  頑丈な男だ、いろんな意味で。  (立ち絵:saya_a08.png 画面左に表示)  紗耶「阿部さん、ありがとうございました」  阿部「おう、お安い御用さ。ちょっと俺は仕事があるからもう行くぜ。じゃあな、紗耶ちゃんと俺の恋人」  夏輝「誰がですか」  (立ち絵:阿部 消去。紗耶の立ち絵を中央に移動)  高らかに笑いながら、阿部さんはまた軽トラに戻り、颯爽と走り去っていく。  (SE:車の走っていく音)  今度のカーステレオはゲームのBGMらしい。多分ジャンプしただけで死ぬ探険家のアレ。  そこで俺ははたと気がついた。  夏輝「なぁ、紗耶さんや」  (立ち絵:saya_a06.png 差し替え)  紗耶「なに?」  夏輝「つかぬ事をお伺いいたすが、帰りは?」  (立ち絵:saya_a06.png 差し替え)  紗耶「歩くのよ?」  夏輝「ああ、やっぱり?」  ガッデム。  (2000ミリ秒で画面暗転、BGMも同じく2000ミリ秒でフェードアウト)    ちなみにその日の夜、筋肉痛でろくに動けなくなったのは言うまでもない。  (終了)